天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鳰と狼(7/11)

誰の奥さん?

(2)妻を詠む
ふたりともに愛妻家であり、妻を詠んだ句はほぼ同数ある。以下では、結婚して子供が生まれる時代、妻の晩年 からそれぞれの作品を抽出して比べてみよう。
[澄雄]澄雄の妻・アキ子の死は、心筋梗塞による突然死で、青天の霹靂であった。
     除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり         『雪檪』
妻を白鳥に見立てる句は他にもあるが、この句を契機に妻アキ子は「白鳥夫人」と呼ばれるようになる。
     向日葵や起きて妻すぐ母の声          『花眼』
子供が生れてからは、まっ先に子供のことを気にかける母の態度になった。
     初つばめ妻ゐるごとくひとり茶を        『餘日』
今年も燕がやってきた。ひとり茶をたてているが、生前の妻とお茶を楽しんだ時と同じ。
     妻亡くて道に出てをり春の暮          『白小』
妻を恋しく思うやるせない気持が、さりげない言葉の斡旋で見事に表現されている。
[兜太]兜太の妻・皆子の死は、腎臓疾患による入院・手術の末の病死であった。
     妻みごもる秋森の間貨車過ぎゆく        『少年』
「妻みごもる秋・森の間・貨車過ぎゆく」と八・四・七に読む。
     芋虫に心臓とどろくおらが妻          『暗緑地誌』
芋虫を見て奥さんはギョっとし、胸が高鳴った。悲鳴を上げたかも。「おらが妻」はもちろん一茶の「目出度さもちう位也おらが春」を踏んでいる。
     春の鳥ほほえむ妻に右腎なし          『東国抄』
術後に「私は大丈夫、心配しないで」と作者に微笑む妻。なんとも凄まじい愛情と思う。
     亡妻いまこの木に在りや楷芽吹く        『日常』
かつてふたりで庭の木々の芽吹きを何度も話題にしたことがあったのであろう。