天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

死を詠む(22)

湖

  死といふは他者の死つねにわが生を確かならしめて死こそ賑やか
                         岡井 隆
  しらぬひ筑紫の国の私生活死のかげの射すま昼と思ふ
                         岡井 隆
  月鞠(げつきふ)にはるか死を吸ふにほひありどこかで喪くし
  どこかで生(あ)るる              辰巳泰子


  巧妙に仕組まれる場面おもわせてひとつの死のため首たれている
                         岸上大作
  落日にかがよう湖われに死はひとつづきなりただに明るく
                         安部洋子
  死はつねに見おろされをり見おろすはからくも生の威儀保つため
                         岩田 正
  死を言へば死の側に居ぬ我々の声まのびしてあかるむばかり
                         大口玲子
  娘の死をしらない母の子もりうたゆうらりゆれてゆりかごのうた
                         黒沼春代


岡井 隆の短歌作品を理解するには、多様な女性関係を知ることが肝要である。二首目は、彼がB女との家庭を捨て、勤務先の北里研究所附属病院を退職して、九州へC女を伴って出奔してからの生活である。筑紫の国は福岡県である。詳細は、2017年12月18日から8回にわたって連載したブログ「Dr.Ryuの場合」を参照ください。
辰巳泰子の歌の月鞠とは、満月のことだろう。黒沼春代の歌は、なんとも哀れ!