天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

現代歌枕の発掘(1/8)

小池光『現代歌まくら』(五柳書院)

この機会に歌枕・歌ことばについて、現代短歌の視点から私見をまとめてみたい。
今日、歌枕といえば、歌に詠まれた土地あるいは地名という意味にとられているが、古くは、『能因歌枕』に見られるように、その本義は、歌を詠むための基本的な歌言葉のことであり、地名もその一部であった。この観点から、近年になってまとめられた書籍に、片桐洋一『歌枕歌ことば辞典』(角川書店、1983年12月)ならびにその増訂版(笠間書院、1999年6月)がある。但し、そこで取り上げられている言葉は、すべて古典和歌の範疇である。
現代の歌枕については、例えば、小池光『現代歌まくら』(五柳書院)がある。そこには、自然の地形、国内外の地名、花鳥風月や季節の名、国内外の人名、近現代の産物等、強い求心力をもった普通名詞すなわち歌言葉が含まれている。歌枕の条件となる優れた短歌並びに小池による鑑賞が展開されている。
本稿では、歌枕をさらに拡張して、文字への関心や地図への関心を詠んだ歌をとりあげて、高度の象徴性、暗喩性を帯びる現代的歌枕の発掘を試みる。例歌をできるだけ多く紹介するため、個々の鑑賞は極力省略し、要点をコメントするにとどめるが、歌の内容の理解は容易であろう。