楽器を詠むー笛(3/3)
笛太鼓背にし聞きつつ限りなくとほき別れのごとき思ひぞ
島田修二
*府笛や太鼓の音を背の後ろに聞くときは、まさにこのような思いをするであろう。よくわかる。
ひとよぎり一節(ひとよ)切(ぎり)とぞ歌ひ来て冬の木賊がまたも伸びゆく
安永蕗子
*一節切: 尺八の一種。管のなかほどに竹の節が1つだけあるのでこの名がある。室町から江戸初期にかけて流行した。木賊とは、トクサ科の常緑、多年生のシダのことだが、世阿弥作の謡曲の名前でもある。都の僧が、父を尋ねたいという少年松若を連れてその故郷信濃へ下り、木賊を刈っている老いた父を見つける、というストーリ。歌は、この物語を踏まえている。
熱きもの持てるごとくに指立てて祭の笛を神官は吹く
中西輝麿
*神官が笛を吹く様が髣髴とする。よく分かる。
青葉の笛も草刈り男もほのかなる夢の入りくちで感傷したり
米川千嘉子
*「青葉の笛」は古典的には、弘法大師が在唐の頃、青龍寺で造ったところ不思議にも青葉が生え、帰国後、嵯峨天皇に献上したのが、のち平家に伝わり、敦盛のものとなった、という伝説がある。謡曲「敦盛」には、草刈り男たちの草笛の音にひかれ、蓮生はことばを交わし、ひとり残っ た男は弔いを願って消える、というシーンがある。歌の内容は、謡曲「敦盛」に基づいているようだ。
龍(りゆう)笛(てき)の指にふさがむ孔ななつ似つかはしきはをみなの身幅
今野寿美
*龍笛: 雅楽で使う管楽器の一つ。竹の管で作られ、表側に歌口と7つの指孔を持つ横笛である。龍笛は横笛と書いて「おうてき」「ようじょう」とも呼ぶ。それは女性の身幅に合っている、という。
横笛(やうでう)をかひなに構へ雅男(みやびを)は唇(くち)を舐(ねぶ)れり
舌ひらめかせ 高久 茂
*初句二句が不可解。「かいな」は、肩からひじまで、あるいは二の腕のことだが、横笛を構えるときにどのように使うのだろうか?