楽器を詠むー笛(2/3)
笛ふきて踊り出づべきものならば笛ふかずともをどりをどらむ
尾山篤二郎
*故事「笛吹けど踊らず」を捻っているようだ。この故事は、あれこれと手を尽くして準備をしても、それに応じようとする人がいないというたとえで、『新約聖書・マタイ伝・十一章』に基づく。歌の意味は、その時が来れば言われなくっても自分から参加する、という。
遠い春湖に沈みしみづからに祭りの笛を吹いて逢ひにゆく
斎藤 史
宵(よ)かぐらの笛の音遠くきく渚ここに根までも生えしわが生
鎌田純一
美しく唇笛を吹く少女とをり聖天さまの甍昏れゆく
岡野弘彦
*聖天さま: 歓喜天のこと。象頭人身の単身像と立像で抱擁している象頭人身の双身像の2つの姿が多い。秘仏として扱われ一般に公開されることは少ない。
はつはつの夏よりうすき夕焼けに鳴らす麦笛つくりてくれよ
馬場あき子
*「はつはつの」は、「わずかな」の意で「夕焼け」にかかる。
生活に拙き父の傍にきて銀色の笛吹きつつあそぶ
大野誠夫
*父は生活を楽しむということを知らないのだろう。笛を吹くことでも楽しくなることを、父に教えているようだ。
浪費(むだづかひ)を知らざる母の買ひて来し小鳥の声がするといふ笛
吉野昌夫
*母は「小鳥の声がするといふ笛」を買ったことを、浪費とは思っていないのだ。子供を喜ばせる効果があるから。