天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

衣のうたーシャツ・下着(2/2)

  コルセットしてをりと思ふおのづから舗道の角を今まがりつつ
                        柴生田稔
*コルセットは、本来女性用の着衣で、胸部下部よりウェストにかけてのラインを補正する役割を持ち、ヒップの豊かさの強調と胴の部分を細く見せる。ただ、腰をしっかり固定できるので矯正用に男性が使用することもある。

  ブラジャーは汗あえ夫の墓を洗ふすべて画然と秋の陽の中
                        森岡貞香
*ブラジャー: 女性が乳房に着用する下着。作者は、19歳で軍人と結婚したが、戦後未亡人となった。秋の陽の中でブラジャーを汗まみれにして夫の墓を洗った、という。

  ストーヴの炎(ほ)はブラジャーの止金(とめがね)に移りつつ魂の穂(ほ)にうつりゆく
                        新井貞子
*「ストーヴの炎」と「魂の穂」との対比。なにを言わんとするのか。もしかして情欲?

  ブルーマーにて毬つく少女跳びまたぐとき美しき両股(もも)のそり
                        田谷 鋭
*ブルーマーは、考案者の米国人ブルーマー夫人の名をとったもので、女性・子供用の裾口をゴムで絞った下着。

  風呂出でて新しき襦袢著る時にきざす安らぎもあはれ短し
                        河野愛子
*襦袢(じゅばん): ポルトガル語の gibão からきている呼称。和服用の肌着,下着である。

  濯ぎあげし白き肌着を軒に掛く身に触るるものを月に潔めて
                       富小路禎子
  ひとつづつ下着減りゆく日ごろにてこころ軽きか髪刈りにゆく
                        筏井嘉一
*寒い頃は下着を重ね着していたが、暖かい気候になってきたので、下着の枚数を減らして心が軽くなった、ということなのだろう。

  病む妻の肌着たたみゐて無花果の葉よりも小さき嵩におどろく
                        安江 茂
*なんともあわれである。

  失禁用のパンツは買はず『老人榮えて国滅ぶ』といふ本を求めぬ
                        宮地伸一
*『老人榮えて国滅ぶ』という本の作者は、野末陳平
 「失禁用のパンツ」は、作者用のものだろうか。宮地伸一は、2011年に90歳で亡くなった。

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コルセット