住のうたー窓・戸・玄関(5/5)
玄関は、鎌倉時代に禅宗で用いられた仏教語という。玄妙な道に入る関門、奥深い仏道への入り口を意味した。玄関が住居の入り口の意味で用いられ始めたのは、江戸時代以降のことらしい。
鍋洗ふと君いたましや井(ゐ)ぞ遠き戸は山吹の黄を流す雨
*鉄幹が若妻を思い遣って詠んだ歌。鉄幹の住む家の井戸は離れた屋外にあったのだろう。使用人ひとりいない自分との新所帯で、鉄幹は優しい心遣いみせている。
開(あ)け閉(た)ての戸の音はばかりあぢ気なし今はさめなん吾子ならなくに
木下利玄
寒きあかりともる玄関に向ひゆく旅遠く来し人のごとくに
柴生田稔
玄関を出るとき妻の肩先を軽くたたけり儀式のやうに
丹波真人
玄関に弥勒菩薩の面(おもて)かけ古り家(や)にひとり永き歳月
麻生松江
なぜここで靴を揃へる 玄関が深い谷間にみえくる今日は
日高尭子
*玄関に靴を揃えることに疑問を抱く、とは意想外。谷間に見えるなら脱ぎちらしてもよい、というのだろうか。