住のうたー風呂・厠・トイレ(1/2)
風呂は元来、蒸し風呂を指す言葉と考えられており、現在の浴槽に身体を浸からせるような構造物は、湯屋・湯殿などといって区別されていた。平安時代になると寺院にあった蒸し風呂様式の浴堂の施設を上級の公家の屋敷内に取り込む様式が現れる。浴槽にお湯を張り、そこに体を浸けるというスタイルは、江戸時代に入ってからという。(百科事典による)
米曳きて町に来れば帰り荷に石炭買ひぬ風呂たてむため
結城哀草果
焼跡の雑草(あらくさ)なかに風呂ありて夜更ゆきけり先生とわれと
結城哀草果
風呂に汲みしあとの冷たき井戸水をコップに一つ妻のもて来ぬ
山下陸奥
夜おそきわれを待ちゐて妹の風呂たく見れば心やすらふ
柴生田稔
宵更けてふたたび入る庭風呂は星の下びに熱く沸きをり
今井邦子
*星の下び: 「星の下あたり」という意味。古泉千樫に例歌がある。なお、島木赤彦は「月の下びに」という使い方をしている。
教育のみだれをなげく子の母の高声つのる仕舞風呂にて
山田あき
瓦斯風呂の瓦斯燃ゆるおと底ごもりわが懸命の声交る如
水風呂にみづみちたればとっぷりとくれてうたえるただ麦畑
村木道彦
*作者は気持よく水風呂に浸って、暮れた麦畑を眺めながら歌を唄っているのだろうか。
風呂のなかトランクのなか棺(くわん)のなか人の入りうる容量さびしき
岡崎康行
寒いのは淋しいからだと午前二時風呂に蓋して亀のやうなり
*真夜中に風呂からあがって寒い思いをしたようだ。亀のように全身を縮めたか。