微小な生命の代表である虫の生態に注目することが、人間の生き方を観返ることになる。
なんの虫かわからぬ虫の鳴きをるよ人間のみが暗きにあらず
石川一成
触覚をしきりに拭ふ虫一つ本読む止めてしばし憩はむ
吉村睦人
背に負へる褐色の毛に朝山の露いただきて虫は眠れり
島崎栄一
秋草が冬草になるころおいの荒びに唸るなんの虫かも
佐波洋子
人知れず仁王の心臓食べてゐる虫のちからを思ひこそすれ
十鳥敏夫
*上句の情景が分かりにくい。作者の想像なのか絵画にでもあるのか?
生涯といふもの虫などに無かるべし彼らは「現在」だけに懸命
浜田蝶二郎
死にまねをしてゐる虫あり意外なるその長き時を風呂に見てゐる
馬場あき子