仏を詠む(4/6)
砂の上に濡れしひとでが乾きゆく仏陀もいまだ生れざりし世よ
岡部桂一郎
会者定離愛別離苦とみ仏はほんとのことを告(の)らして術(すべ)なし
中原綾子
*会者定離: 出会った人とは、いつかは必ず別れるという苦しみがある。
愛別離苦: この世には、愛するものといずれは離れ別れるという苦しみがある。
み佛は下目まどかに口紅(べに)冴えてにほふ乳房(ちち)のへ印組みたまふ
結城哀草果
大津絵にゑがき出されしみほとけは自在のすがたそなはりたまふ
鹿児島寿蔵
*大津絵: 滋賀県大津市で江戸時代初期から名産としてきた民俗絵画。寛永年間のころに仏画として描かれ始めた。やがて世俗画へと転じ、加えて18世紀ごろより教訓的・風刺的な道歌を伴うようになった。(百科事典による)
吾を待ちゐし夜のごとみ仏の君のため闇の庭石ふみ帰るなり
生方たつゑ
み仏の部屋借り申し朝寒にひびきて大きくさめつつしむ
村野次郎
*くさめ:くしゃみ
千の杉立ちて虚空に伸びてゆく千の仏にあらず伸びゆく