田畑のうた(8/8)
ダムの面吹きくる風のつめたかり人参背負ひ山畑下る
下平武治
種子ならず土壌重んずる焼畑は山の神なる女の文化
伊藤一彦
*種子を男に、土壌を女に見立てた発想だろう。
はるかにも花畑つづくに此処よりは踵かへせといふ札の立つ
池田まり子
未熟なる実が毒かくすとふ芥子畑その怪(け)し畑に花散りそめし
富小路禎子
*芥子の白花の未熟の実からは阿片 (あへん) の原料がとれる。
畑土の下に活断層のありやなしやめぐり来し春にわれは種蒔く
田西妙子
*活断層: 断層のうち近年の地質時代(数十万年間)に繰り返しずれた形跡があり、今後もずれる可能性があるもの。
しなやかに風わたりゆく麦の畑去年もここに黄に熟れてゐき
下田徳恵
駅舎とはひかり集まるひとところ茄子畑の道駅へと向かう
川本千栄
きさらぎの時のいとまをゆく畔に密語のごとしひとつ小花は
後藤直二
*密語: ひそひそ話。あるいは仏の、奥深い真実が隠されて説かれた語。