天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

祖父、祖母を詠む(4/6)

  毛羽もてる生(き)漉(ず)きの維新児童訓繰りゆけば祖母の小さき指あと

                         奥田清和

*生漉き: コウゾ・ミツマタ・ガンピだけを原料にして紙をすくこと。また、その和紙。

 

  久保山さん久保山さんとわが祖母は縁者のように日々口にする

                         石本隆一

  月に一度山の小屋より下り来る祖母を恐れき山姥のごと

                         永井保

  墓の位置知る祖母(おほはは)の骨壺を抱きてうから迷ひつつ行く

                        花山多佳子

*うから: 血縁の人々の総称。血族。しんぞく。

 

  「徒然(とぜん)こ」といふが癖なる祖母います三十年前板の日だまり

                         佐藤通雅

*「徒然(とぜん)こ」: 「退屈だなあ」の意味か。

 

  ネルという布地は祖母を思わしむあたたかくやや手強そうにて

                      さいとうなおこ

*ネル: フランネルの略。紡毛糸で平織りまたは綾織りにし、布面をやや毛羽立たせた柔らかな毛織物。

 

  百歳の祖母を車に乗せてゆく宝物を運ぶやうにしづかに

                         江頭洋子

  この秋も祖母は芒の白髪を風に委(まか)せてあの丘の上

                         相沢光恵

 

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ネル