天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

兄、弟を詠む(2/8)

  的大き兄のミットに投げこみし健康印の軟球はいずこ

                        小高 賢

*「健康印の軟球」とは、軟球の面に「健康」の文字が書かれていたのだろうか?

 

 

  新しき職得て在に落ちつきし兄より来たる豊後青梅

                        五所美子

*在: 「在郷(ざいごう)」の略》いなか。在所。

 

 

  征きし儘還らぬ人となりし兄御国の為にとひたすらなりき

                        仲本将成

  復員の願いも虚し骨壺に納まり兄は父母の地を踏む

                        仲本将成

  中支から届きし兄の骨壺を振ればカラコロさみしき音す

                        仲本将成

*中支: かつて、中部支那を略していった語。現在の中国の華中にあたる。

 

 

  若き日に征きて還らぬ亡き兄を幾夜恋ひたり狂ほしきまで

                        仲本将成

  軍服のままにて兄は眠りゐむ昭和終りし平成の代も

                       上江洲慶子

  哲学堂といふバス停留所に降りたるは病む兄を訪ふわれのみなりき

                       和田美代子

哲学堂公園: 東京都中野区松が丘にある。

 

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