この国の忌日つらなる八月になほ忘らえぬ死者よわが兄
水沢遥子
三月ほど逢はねば兄はささいなる用事をもちて職場訪ひくる
井上菅子
抽き出しの奥に残されいたりけり兄の春本酢の匂いして
浜名理香
兄の書きし日記を元に書かれたり太宰治の「パンドラの匣」
木村草弥
*太宰の読者であった木村庄助の病床日記がもとになっている。
一隅に遺品をさむるバッグあり兄を鎮めんと叩くをりふし
川島喜代詩
*をりふし: 時々。
憲法の九条護れと学徒兵兄は厳しく一世貫く
堀江玲子
兄ちゃんが隣に坐りすきやきを私の小さな茶碗に入れる
池田はるみ