天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

竹山 広

ずいぶん時間がかかったが、竹山 広「全歌集」を読み終えた。枕元において眠る前に読むのだから時間がかかるのは当然だが。竹山は「心の花」所属で、長崎原爆の被爆者であり、現在八十五歳。原爆体験を詠んだ歌集『とこしへの川』が歌壇に衝撃を与えたことはよく知られている。
  なにものの重みつくばひし背にささへ塞がれし息必死に吸ひぬ
  血だるまとなりて縋りつく看護婦を曳きずり走る暗き廊下を
状況を反映して、表現と韻律は詰屈で切迫している。

彼の歌の特徴は、技巧を感じさせず、老いても自分の思いや感覚を自在に歌にするところにある。『射祷』は2001年刊行の最新歌集だが、次のような歌に、それが現れている。
  宇宙ステーション老ミール怖ろしや落すといひしところに落す
  病み重る地球の声のきこゆると言はしめてただ神は見たまふ
年をとれば、何事にも驚かず無感情になりがちなので、歌に若さ・潤いがなくなるものだが、彼の歌は依然として若々しい。


明日から、二泊三日で名古屋方面に旅する。