天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

明石

 平安朝後期の歌人にとって源氏物語は必須の教養であった。例えばあまりにも有名な次の歌は明石の巻を面影にしている。

  見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮
                       藤原定家

 塚本は、『源氏五十四帖題詠』の「明石」については次の歌を詠んだ。当然定家の歌に対抗する意識があった。

  ともしびの明石に泊てて聴く琵琶の音(ね)ぞ沈みゆく夜のわたつみ
                       塚本邦雄

 光源氏は流浪の地須磨で異常気象に会い、明石に身を避け、明石入道の邸に迎えられる。つれづれなるままに、入道の琵琶に和して源氏も久々に琴を弾く。そうした情景が描かれている。明石の巻をよく知っている人にとっては、塚本の歌はわかり過ぎるきらいがある。


 今日は節分。遊行寺の豆まきを初めて見た。午後から一時間おきに二、三回行うらしいが、見たのは二時の分である。遊行上人他が櫓上から何かが入った袋を撒き、それを下に集まった人々が争って拾う。なんとも現代にそぐわない風景ではある。


  鈴なりにむれて枯れたる桐の實のひかり寂しき如月の朝
  境内に猫捨てるなの札たちて鬼払ふなり今日節分会
        節分会みな頬張れる恵方巻