天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

長老と若手

 「歌壇」三月号に掲載されている歌から気になったものをあげる。
まずは長老・岡野弘彦の「惚け忍法帖」から。
  人を殺し 人に殺されし魂の 鎮まりがたく 夜半にきて哭く
  きさらぎの荒野の闇に 一つ眼の大太良法師 吾を 背負ひゆく
  友らみな 万朶の花とちりゆけり。桜のもとのまぼろしを 恋ふ

太平洋戦争の戦場で散った友人に対して生き残った岡野。申し訳なさ、悔しさがトラウマになって、いつまでも同じ主題を詠い続ける。


次は若手実力派・吉川宏志「沖縄時間」から。
  資料館つくれば資料となりてゆく熱に溶けたるガラス注射器
  石の上(へ)にささげし花は集められふたたび売られいるとぞ聞きぬ
  とろとろと古酒をそそげば揺れはじむ器の底の青き魚(うお)の絵
  土地の権利買います という赤き字が〈基地反対〉に離れつつ立つ

吉川の二首目の内容は、まことに訪れる人の気持を傷つける。花を売っているのは、沖縄戦の犠牲者の老婆たちというから、ますます気分が悪くなる。最後の歌はよく理解できないところがある。土地の権利を買いますというのは誰か。「離れつつ立つ」というから、基地反対派が買うのではなさそう。