天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

『父・白秋と私』

 この本を通勤の車中でも読んでいる。これは筆者の北原隆太郎が本の構成まで考えて書き下ろしたものでなく、彼の死後、奥さんの東代さんが、隆太郎が折にふれて書いたり話したりした原稿を編集してなった本のため、時間軸の筋がとおっていない。特定の時期にあるいは土地に焦点を当てて、白秋の生活を見ていくしかない。
 感心するのは、引用されている白秋夫人の菊子さん、つまり筆者の母上が残した日記がリアルであること。詩人の妻の生活の一端が伺えて面白い。小田原の「みみづくの家」で関東大震災に遭ったのだが、その後の二ヶ月間くらいの内容は、断片ながら感動ものである。ちなみに、菊子夫人は、白秋が小田原に移ってきてから結婚した。
 白秋の記録を見るたびに驚くことであるが、家族を同伴してよく旅行し、その期間も悠々として多くの日数を費やしている。斎藤茂吉の場合も同様な傾向であったので、その時代の特徴だったのだろう。現代の詩人では、先ず旅費などの資金がもたないから、とてもこうはいかない。