天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

新しい感覚

 六月号の雑誌「歌壇」は特集=歌ことばを耕すーより深く豊かに   が面白い。
特に吉川宏志の「ルビ・造語がひらく新しい感覚」に注目。ルビにせよ造語にせよ、要は常識的な規範に縛られるのではなく、効果がでれば積極的に使用すればよい、ということ。ただし、効果がないと厳しい批判は覚悟せねばなるまい。吉川が取上げている例から。

  冬雲のなかより白く差しながら直線光(すぐなるひかり)ところを
  かへぬ             斉藤茂吉『白桃』
茂吉自身は、大和言葉のルビを思いついたことに満足している。ただ、茂吉以外の人がこれをはじめてやった場合、茂吉が評価したかどうかは疑問。

  まんじゅしゃげの千の異名のひとつなる娘子軍花をつひにかなしむ
                  小池 光 『草の庭』

一読して読者は、娘子軍花という別名がまんじゅしゃげ(彼岸花)にあるのだろうと素直に思い込んでしまう。小池の告白によると、「娘子軍花」は彼の造語とのこと。読者はそんなこととは露知らず、娘だけからなる軍が破れ、敵兵に犯されるイメージを伴うエロティックで悲しい名前と、鑑賞するのである。なんと罪作りな! しかし、新しい感覚を醸成しえていることは明白である。