天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

人体の不思議展

深紗大将

 今日は関内の横浜産貿ホールで開催中の「人体の不思議展」に出かけた。明日で閉会のせいか、親子づれや若い女性たちで込み合っていた。以前にも見たことはあるが、今回は梅雨時期のせいか、吐き気がするほど気持悪かった。若い女性たちが平気でしげしげと見入っているのには、辟易した。


     鰡跳ぶや山下埠頭の波しずか
     手ざはりは絹の感触薔薇の花
     梅雨ふかし人体標本匂ふごと
     六月の新婦かがやく木蔭かな


  桑の葉のみどりにむせてわが仰ぐ「絹と女」の青銅の裸婦
  青銅の裸婦像立てりみどりなす桑の葉むれの息吹をあびて
  桑の木の息吹に立てる裸婦像の腰の肉付き見れば苦しも
  手術器具さまざま付けて直立てるからだ裂かれし人の標本
  全身に末梢神経まとひたり白きまなこの人体標本
  胸腹部内臓見する標本の腰より垂るるペニス睾丸
  おほいなる脳の食欲みたすべし頭蓋包める血管の網
  体幹を矢状に断ちて並べたり肉屋が売れるハムの断面
  骨格系循環器系神経系筋系四体縦列に立つ
  人体の連続断面展げたり輪切り縦切り部位によりたる
  全身の血管標本美しも赤き藻草が人型なせる
  弓を引く人の全身骨格筋きのう食うべし鮭とばの色
  右の手に持ち上げてみる脳標本少し湿りて一キロあまり
  人体の最小の骨耳小骨 槌と砧と鐙から成る
  血流の五秒絶ゆれば失神す酸素不足に脳は弱けれ
  わが前にゆふるり廻る肺黒き人より取りし胸腹部臓器
  されかうべ見下ろして立つ骸骨のまなざしやさし虚ろなれども
  アミロイドβたまり壊さるる脳のあはれやアルツハイマー
  早々と手足顕ちたりひからびて胎児の成長過程がならぶ
  梅雨なれば湿りてすこし気味悪し胡桃のごとき脳を手にもつ
  日本刀の抜き身ならべる展示場人体輪切りを見しのちに入る
  人体の輪切り標本見し後にふれて冷たき抜き身の刀