御詠歌(2)
御詠歌は巡礼歌とも呼ばれ、札所ごとに歌がある。三十一音の和歌の形式をとる。最も古い記録は、小瀬甫庵の『太閤記』であり、寛永二年(一六二五)という。巡礼歌の全体を記録したものに、延宝四年(一六七六)頃の『淋敷座之慰』がある。「西国巡礼哥」「坂東巡礼哥」が載っている。三十三ヵ所の札所それぞれに捧げられた歌である。制作は、花山院の御製という説もあったが、これは花山院が札所の開祖であるという説からきているが、実際は違うらしい。釈教歌や神詠歌に共通する表現方法や掛詞などの技巧の水準が一定していることから、特定の人物がまとめたと考えられるという。歌は札所の観音像の前で歌われるが、その節回しにはいくつもの流儀がある。
御詠歌に共通的に出てくる言葉をあげておく。
「ありがたき」「あらたかに」「たのもし」「滝津瀬」「峰の松風」「たのめ」「拝む」「詣る」「まこと」「慈悲」「誓」「巡り」「身」「・・らん」 等。
紛らわしいが、仏の教えを賞賛する歌として次のようなものがある。
*仏足石歌
釈迦如来の足跡を刻んだ石を礼賛する歌で、短歌形式に七音
を付け足した五七五七七七という詩形である。最後の七音は、
繰り返し的に使われる。この形の歌は、『古事記』『万葉集』
などにも見られる。
御足跡造る 石の響きは 天に至り 地さへ揺すれ
父母がために 諸人のために
*和讃
和語によって三宝(仏法僧)の徳を讃える仏教讃歌で、七五
調の句を長々と連ねた謡ものである。平安時代からある仏教
の典礼音楽である声明に、詞をつけたかたちのもの。特に盛
んになったのは、浄土教など鎌倉新仏教によって活用されて
からであった。
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世間本より常なくて 是をぞ生死の法といふ
生をも滅をも滅しをへ 寂滅なるをぞ楽とする
一切衆生ことごとく 常住仏性備はれり
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*釈教歌
和歌の分類として、仏教思想に基づいた歌。ちなみに、仏で
はなくて神のことを詠んだものを神祇歌という。千載集以降
の勅撰和歌集の部立に取り入れられた。