天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

『昭和短歌の精神史』(1)

 三枝の『昭和短歌の精神史』を読んでいる。この本は、日中戦争突入から第二次大戦後までのそれぞれの局面における歌人達の作品と言動について、多くの資料と調査をもとに書いている。民主主義になって六十年を経たからこそこうした冷静沈着な評論が書けることもあろう。
 この本を読み進むに連れて、幾人かの歌人について、言動の推移を見てみたくなった。特に、土岐善麿斎藤茂吉太田水穂、木俣修、坪野哲久 など。戦後、例えば斎藤茂吉は戦争を鼓舞したかどで、ずいぶん歌人達から非難され、茂吉自身ひどく落ち込み反省したことが知られている。その非難する側に立った歌人達自身もある時期は茂吉と同類であったのだが、実に変わり身が早かった。戦局が変わるにつれ、歌壇内部の勢力争いを含みつつ権力と結びつき、終には負けることが明らかになり、戦後の責任を意識し始める。これは決して昔のことでも他人ごとでもない。