『楽園』(5)
二千七百円の新しい歌集が、ボールペンの書き込みで、くしゃくしゃになってしまった。これでは将来、古本屋にも売れない。まあ、消耗品と考えれば、遠慮なく気の済むまで鑑賞できるというもの。後生大事に扱っていては、深い読みはできない。
J 本歌取りあるいはコラボレーション(俳句、和歌/短歌、詩、小説
などの情景・情緒を面影にして、新しい情景・情緒を展開する方法)
虚子の句の大根の葉の実存を超克すべし 眠れ!テラヤマ
*本歌は、高浜虚子の有名句「流れゆく大根の葉の早さかな」
廊下の奥に立っていたのは誰ですか 青年三橋敏雄応召
*本歌は、三橋敏雄の有名句「戦争が廊下の奥に立っていた」
無線LAN容すオフィスの日常のもとより花も紅葉もあらず
*本歌は、藤原定家の名歌
「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕暮」
その他、この歌集では三橋敏雄句集とのコラボレーションを一章
としてたててある。
K 「こそ」の多用
創元推理文庫、ハヤカワ ミステリの書影が浮沈してこそ微熱
水滸伝はた酔虎伝 レビューこそ花の都の名物ぞこれ
前世また来世も虚無をこそ嘆く吟遊詩人春逝かしめて
十月の夜空の月の光芒を浴び錬金の術こそモダン
倫敦にジャック・ザ・リパーさればこそこの街娼に
愛を!憎悪を!
次の火を否めば次の花も枯れこのモノクロの視野こそ明日
標的となる存在であらざればロルカの真夏の死こそ反歌ぞ
地下鉄は都市の迷路を疾走しこの瞬間の詩こそ贄なる
韻文の乱れ乱れて終の日の銀漢にこそ意思表示せよ
ジェノサイドこそ至福なれコロポックルも貴種流離せよ
半ずぼん履かば美童ぞ軍袴より半ずぼんこそ形見なるべし
地べたには黒き染みあり体液のごとき滲みあり蝿こそ神ぞ
陰翳を湛え聳える裏富士の裏のエロスの甘美こそあれ
L 助詞「を」の使い方(言いさしや倒置とも関係する)
「あなあはれ またとはなけめ」東京のファイナル・アンサー
として歓喜を
コカインのうすきけむりの壁畳這うよろこびを折口信夫
現在であるゆえ今日を現在を、重信房子されば現在
窒息死するほどの愛さもなくば顔に唾吐きかける癒しを
性愛をめぐる悲哀の交感は永遠にして娼婦の慈悲を
倫敦にジャック・ザ・リパーさればこそこの街娼に
愛を!憎悪を!
行為と死、性交と慰謝、労働と射精すなわち罪と罰とを
音楽として性感はあるものを飯島愛の本の山積み
夢は枯野をかけめぐりたるそののちを小野撫子という男ありしを
月光は狂気を育て東京の寒気はレジスタンスの澱を
粉末の薬の苦さ口中に信天翁飛ぶような鈍さを
凍天の北斗七星目に沁みて詩に痩せて詩に殉ずる夢を
シュールレアリストのように卓上の海鮮そして講和会議を
肉体はもののあわれを体現し衆道という回路ありしを