天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

江ノ島岩屋

岩屋の歌碑

 出張先では、食欲が出るような動き方をしなかった。新幹線に座っての移動も苦痛だけであった。それで今日は少しでも身体を動かそうと、暑い日盛りの江ノ島に出かけ、岩屋に入った。岩屋の中は秋の風が吹いていてまことに心地よかった。
 岩屋に入ってすぐのところにある海水溜りに、与謝野晶子の歌碑が立っている。明治四十五年一月刊の歌集『青海波』に出ている歌である。歌碑の筆は、晶子の研究家でもある歌人尾崎左永子によるという。

  沖つ風吹けばまたたく蝋の灯にしづく散るなり江ノ島の洞


     秋風の釣り人ふゆる埠頭かな
     逝く夏を波頭に立ちて惜しみけり
     下書きといふ腰越之状秋の風
     満ち潮の音にききほれ赤とんぼ
     「沖つ波」歌碑読む岩屋秋の風
     絶壁に黄の百合咲ける岩屋かな
     江ノ島の裏道ゆくや法師蝉
     
  江ノ島の弁財天に賜りし管鍼の術杉山検校
  笠塔婆型の墓石に葬られて断崖に立つ杉山検校
  奥津宮銀杏のそばに銅像山田検校箏曲流祖
  夜光虫の棲みしいにしへ想はせて青きランプが照らす海水
  近代の和歌と言ふべし沖つ波晶子の歌を映す海水
  石仏のならぶ岩屋にとどろけり龍呼び寄する雷神の声
  日蓮の寝たる姿を想へとや岩屋の奥に横たはる石
  まなかひの富士に通ずる道ありと言ひ伝へたる岩屋洞窟
  満ち潮の風にふかるる洞窟に秋の声聞く石仏の群
  広重の名所図会にも描かれたり弁財天の陰の洞窟