天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

寒の入

 今日は寒の入、おまけに朝から冷たい雨が降って、空調入れて炬燵にはいっていても寒い。しょうがないので布団に潜りこんで正岡子規著『俳人蕪村』の続きをお終いまで読んだ。続いて「俳句上の京と江戸」という文章を読み始めた。これがまた面白い。まずは、江戸時代の俳諧について、京都勢と江戸勢とで勝敗を論じる。江戸期を六期に分けて、各期の京と江戸の俳人の力量を比較する。結論は引き分け。続いて、俳句に京風と江戸風の特徴があることを、例句をいくつも挙げて説明している。
子規があげる両者の特徴を要約すると、

京風:  やわらか、うつくしい、濃厚、おとなしい、すらりとして
     いる、三十六峰が庭先や軒端にうねくっている風、公卿が
     衣冠をつけて牛車で参内する趣。

江戸風: 強い、渋い、淡白、気が利いている、曲がりくねっている、
     武蔵野が只ひろびろと広がっていて、左右に富士と筑波を
     みるだけの風、大名が鳥毛の槍をふらせて駕籠で登城する
     趣。

といった分析である。比較している例句の内のいくつかをあげると、

京風:  去来の句から
      鎧着てつかれためさん土用干   
      知る人にあはじあはじと花見かな
      何事ぞ花見る人の長刀
      御神楽や火を焚く衛士にあやからん

江戸風: 其角の句から
      夜著を着てあるいて見たり土用干
      饅頭で人を尋ねよ山桜
      寝よとすれば棒つき廻る花の山
      誰と誰が縁組すんで里神楽


この文章は、京都の俳誌「種ふくべ」を発刊するに際して、子規が依頼された評論である。講演調で書かれていて、読みやすい。
 子規のこうした分析的な評論の根拠は、66冊のノートに、室町から幕末までの五百年間の十二万句を分類した仕事にあった。