天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

芭蕉の開眼3

長谷川櫂著『「奥の細道」をよむ』を読み終えた。不易流行と「かるみ」についての長谷川の解釈が見所である。要所を本文から引用するのが手っ取り早い。


 「人の生死にかぎらず、花も鳥も太陽も月も星たちもみな
  この世に現れては、やがて消えてゆくのだが、この現象は一見、
  変転きわまりない流行でありながら実は何も変わらない不易
  である。この流行即不易、不易即流行こそが芭蕉の不易流行
  だった。」

不易流行の典型の句は、

      閑さや岩にしみ入蝉の声


  「悲しい人生を悲しいと嘆くのではなく、たとえ悲しい人生で
   あっても面白いとみる。芭蕉の見出した「かるみ」とはそういう
   ことだった。」

かるみの句の典型として、

      蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ


 当時の芭蕉の弟子たちは、長谷川が解説するように明快に理解していたわけでなく、各人がかってな解釈をして教えていたらしい。芭蕉の教えを言葉そのままに残したという去来著の『去来抄』においてさえ、不易流行の部分は大変紛らわしく、誤解を与えそうな書き方になっているのだ。 ・・・・・・
 「奥の細道」のさわりの文章に加えて、芭蕉の俳句の背景になっている歌枕の古典和歌や漢詩も引用されており、まことに読みやすい。何はともあれ、一読をお勧めしたい。