天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

磨崖

逗子・鷹取山にて

 横須賀線東逗子駅から山側の道を登って神武寺にゆく。天台宗の寺だが創建時期は詳らかでない。神奈川県教育委員会・逗子市教育委員会が立てた境内の看板によると、承元三年(1209)五月十五日、将軍実朝がここに参拝したことが吾妻鏡に記されているとある。実際に吾妻鏡のその時期の項を見てみると、


「5月15日 丁未
  神嶽並びに岩殿の観音堂に御参り。御還向の間、
  女房駿河の局の比企谷の家に渡御す。 山水納涼の地なりと。」


これだけである。岩殿の観音堂とは、逗子駅から鎌倉に向う山にある岩殿寺のことなので、神嶽が神武寺に当たることになる。本当か?
 処々に鶯や時鳥の声を聞く。木々が鬱蒼と茂って昼なお暗い道を山の稜線伝いに先に進むと鷹取山に出る。それほど高くはないが、磨崖が数面立ちはだかっているので、禁止されているにも関わらず岩登りが盛んである。京急田浦駅まで歩くルートもあるが、今回は元来た道を引き返して東逗子駅に戻った。


      木洩れ陽や蠛蠓(まくなぎ)ぼうと現るる
      神武寺のあり処知らすやほととぎす
      緑陰の釣鐘時を忘れたり
      神武寺に今年もきたり時鳥
      神武寺の昔は知らず時鳥
      卯の花や磨崖に赤きロープ垂る
      岩登り禁止の札も炎暑かな


  さむざむしプラットホームの両端の喫煙場所に人たむろする
  大岩の狭間くぐりて神武寺の山道ゆけば啼くほととぎす