天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

献血の歌

逝く夏の片瀬海岸

 「短歌研究」で楽しみに読んでいる連載に「徒然懐旧譚」がある。斜交から見える父ということで、塚本邦雄の思い出を一人息子の塚本青史が書いている。前衛歌人塚本の短歌作品にもかなり個人的な日常が詠まれていることが判り、興味深い。彼は、私的な歌はいっさい詠んでいない、と思われがちなので、作歌の秘密を見る思いがする。9月号では、次ぎの歌の背景が紹介されている。


  採血の男に腕(かひな)扼されて血は獻じたれ
  愛の纐纈(かうけち)


 纐纈はこうけつともいうが、飛鳥・奈良時代に行われた絞り染めの名である。布帛を糸でくくって浸染する。文様染めとしては最古の方法。こういう奥ゆかしいというか悪くいえばペダンティックな言葉を詠み込むところが、塚本の真骨頂である。