天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

酸漿

龍隠庵にて

 酸漿(ほおずき)は鬼灯とも書くが、その呼び名は、ホオというカメムシの一種がよく付くところから来たらしい。日本、朝鮮半島、中国北部に野生するナス科の多年草


      鬼灯や野山をわかつかくれざと
                   久保田万太郎
      暗殺の辻の鬼灯与力町
                   森 武司


  うなゐらが植ゑしほほづきもとつ実は赤らみにたり秋のしるしに
                       伊藤左千夫
  この夕べ心いらだたしふり向きてほほづき鳴らす妻を叱れり
                       結城哀草果


 円覚寺の龍隠庵では、少しずつ庭の手入れがされているらしく、来るたびに草木の佇まいが洗練されているのに気付く。石段の傍らには、小さな石仏が何体か置かれ、季節の花がさりげなく供えてある。


      打水の山門くぐる杉木立
      仏殿のうす闇のぞく浴衣かな
      柏槙の木陰に涼む石灯篭
      酸漿の赤にほほゑむ地蔵かな
      舎利殿の闇は尊し蝉しぐれ
      藁葺の山門暗し酔芙蓉


  文人の句碑歌碑読まむそのかみの駆け込み寺の墓地に分け入る