天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

オカピ

ズーラシアにて

 コンゴ民主共和国北東部とウガンダ西部の熱帯雨林に生息する。1901年、探検家ハリー・ジョンストン卿によって発見された。偶蹄類キリン科の哺乳類。危急種とするか絶滅危惧種とするか判断できないほど情報が少ない。初めはウマ類の祖先かと思われたが、キリンの祖先の形質を保持しているので、生きた化石とされる。だがその肢体はエロスに満ちてビーナスよりも美しい。


  干草をのこらずさらふ長き鼻すこやかなれば象の朝食
  親指を咥へてちぢむテナガザル日本の檻の冬の寒さに
  子の言葉長い尻尾が落ちそうなふたり棲んでるフランス
  ワルソン


  オスは今病気療養中といふメスばいかりなるライオンの群
  朝食の肉の塊ころがりてアムールトラは前足を舐む
  朝食の残りのリンゴひとつ浮くホッキョクグマの檻の池はや
  空仰ぎカスタネットに啼き交はす嘴長きコウノトリ二羽
  巣のメスと池のオスとが嘴をカスタネットに鳴き交はしたり
  時計草の花咲く檻にカリカリと厭かず木を食むヤマアラシはや
  それぞれに毛づくろひせるシシオザルお見合中を人に見られて
  金網はなけれど空に飛び立たず羽根の少なき一羽マナヅル
  美しき肢体なりけりオカピには身を隠す森なくて佇む
  ズーラシア出口にむかふ道筋は風にふるへる十月櫻