蟹(1)
正月が近づくと、わが国でもてはやされる食材のひとつに蟹がある。まあ、テレビの旅行番組やグルメ番組では、年がら年中蟹を食う場面がでるほど蟹好きである。思うに、美味いこともさることながら、茹で蟹の色艶に幸福感を抱くのではないか。金色、黄色、橙色、赤色 は豊な心持にしてくれるのだ。形だけ見ればとても食欲はわかないはず。人間に食べられる前にせよ後にせよ、無数に積み重なった蟹の群は大きな悲哀を象徴しているようだ。こうした状況を詠んだ歌を二首あげておこう。
蟹食いておりし蛤、もろともに食らいつつ灯のなかの家族ら
永田和宏
茹で蟹の無数の脚は積まれをりほのぐらくして路のかたはら
小野茂樹
蟹の気持を知りたくなって、新装なった江ノ島水族館に行ってきた。