春の鳶
春二番の風に空を舞う鳶を見ていたら、飯田龍太『百戸の谿』の巻頭句
春の鳶寄りわかれては高みつつ
を思い出した。それで春の鳶の写真を撮ろうと苦心惨憺して見たが、望遠の焦点にとって、鳶の動きが早すぎる。撮るには撮ったがちっとも春の鳶に見えない。よって風向計との合成写真にしてみた。少しは春の気分がでたであろうか。
かもめ浮く春のにごりの河口かな
浮びきて海鵜駈けだす春の海
鳶高く春の疾風に身をまかせ
風奔る空の高みに春の鳶
大楠を離(さか)りて高き春の鳶
つちふるや地の果てにして西の空
押し寄する芥のま中に浮び出で海鵜首ふりまた
潜(かづ)きけり
みぎひだり島を回りてぶつかれる春のうしほは高くしぶけり
ヨット皆青きシートに覆はれて春の嵐を港に避くる
写さむとカメラ構へて仰向けど鳶は流るる春の疾風に
ついでながら、鳶を詠んだ短歌を三首、次にあげておく。
大き鳶たわたわと来て過ぎるとき穂にあざやけき丹波栗の花
北原白秋
暁のくらき山より来る鳶は海のなぎさに暫し降りたつ
佐藤佐太郎
洲のうへの気流の壁をのぼりつめ鳶の羽交ひの荒くもあるか
岡井隆