天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

はじめに言葉ありき(1)

アイヌ神謡集

 これは新約聖書ヨハネ伝、第一章、第一節の冒頭に出てくる言葉である。とりとめもない話になるが、文字の発明は、人類が言葉を使い始めてからはるか後のこと。最近アイヌユーカラを読んでいる。また小林秀雄の『本居宣長』の講演CDを聞いている。小林によれば、宣長は日本の神話を信じており、文字によらない口承神話には心を通じた真実が語り継がれていると主張する。これはプラトンがレトリック(修辞学)を排して対話を重視した思想に通じる、と小林は話す。
 ところでアイヌユーカラを読んでいて湧いてくる疑問は、口承神話は何百年と語り継がれている間に、語り手による脚色がかなり入ったのではないか、特に細部に、ということ。文字による記録の場合は、筆写による広まりの過程で誤読や推測読みによる変形、脚色が考えられる。小林の講演では、こんな脚色のことは全く出てこない。プラトン宣長も伝承における真実の心を理解せよと説いた。神話はアレゴリー(寓話)ではないという。