峰
峯、嶺、みね。谷に対向する地表の隆起部の先端、山の一番高い所。
峰は、古典和歌に多く出てくる。
雲中の峰を寺とし桃の花
長谷川櫂
山のま際ゆ出雲の児らは霧なれや吉野の山の嶺にたなびく
万葉集・柿本人麿
立ち別れいなばの山の嶺に生ふるまつとしきかば今かへりこむ
古今集・在原行平
はるの夜の夢のうき橋とだえして峰にわかるる横雲のそら
新古今集・藤原定家
冬くれば谷の小川の音絶て峰の嵐ぞ窓をとひける
式子内親王
山ざとは世の憂きよりも住みわびぬことの外なるみねの嵐に
新古今集・宜秋門院丹後
「峰の嵐」など現代ではとても気恥ずかしくて詠めないだろう。
古典和歌の時代、山伏のような修行者か猟師以外は、高い山の頂上に登ることなどなかった。それゆえに遠く望む山の峰はあこがれの象徴になりえたのだろう。近代では、峰よりも山が詩によく出るように思える。
山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
噫、われひとと尋めゆきて、
涙さしぐみかへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。
この詩は、上田敏が1905年(明治38年)に『海潮音』に収めた周知の名訳「山のあなた(Über den Bergen)」である。原作者のドイツの詩人・カール・ヘルマン・ブッセは、1872年から1918年まで生きた。これはわが国の明治5年から大正7年に当る。