蜘蛛
今の季節、林に入ると巣をかけた女郎蜘蛛をよく見かける。以下のように古くから歌に詠まれている。「ささがに」とも言う。また、「ささがねの」「ささがにの」が「くも」「いと」「いづく」「いかに」「いのち」などにかかる枕詞として使われる場合もある。万葉集に一首(長歌)、新古今集には、ささがにとして以下の二首が詠まれている。俳句では、夏の季語になっている。
山雨過ぎ網を繕ふ女郎蜘蛛 大久保白村
魂抜けしごとき破れや蜘蛛の網 鷹羽狩行
わが夫子(せこ)が来べき宵なりささがねの蜘蛛の
行ひ今宵著しも 日本書記・衣通郎姫
蜘蛛(ささがに)のいとかかりける身のほどをおもへば
夢のここちこそすれ 新古今集・源俊頼
吹く風につけても問はむささがにの通ひし道は空にたゆとも
新古今集・藤原道綱母
ささがにのくもであやふき八橋を夕暮かけて渡りかねぬる
玉葉集・阿仏尼
此ゆふべ合歓木のきれ葉に蜘蛛の子の巣がくもあはれ
秋さびにけり 伊藤左千夫
わが側に這ひよる蜘蛛を眺めゐてやがて殺しぬ机のかげに
若山牧水
大いなる蜘蛛の巣ゆれて光りいつ過ぎて思えば美しかりき
佐佐木幸綱