天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

牢獄

東京拘置所

 かつては、ひとや(人屋、牢舎、監獄、獄舎)と呼ばれた。宇治拾遺物語にも用例がある。


  住みそむるひとやの枕うちつけにさけぶばかりの波の音かな
                       野村望東尼
  人家なる君を思へば真昼餉の肴の上に涙落ちけり
                       正岡子規
  かなしきは人間のみち牢獄(ひとや)みち馬車の軋みてゆく礫
  (こいし)道                北原白秋
  大空に丸き日輪血のごとし禍(まが)つ監獄(ひとや)にわれ堕
  ちてゆく                 北原白秋
  監獄いでぬ重き木蓋をはねのけて林檎函よりをどるここちに
                       北原白秋


  囚われてこの監房の高窓に、
  秋空あおぐ
  雲迅き夜の。               渡辺順三


  監房の冷たき夢は
  自由に語り、自由に歩む
  夢ばかりなる。              渡辺順三


  拘置所の長い廊下の
  冬の朝、
  身に沁みとおる手錠のひびき。       渡辺順三


  たましひはあした夕べに長息たり獄舎に無辜のおのれを信じ
                       小名木綱夫