春田
鋤き終えた田んぼに、引き入れた水が次第に広がってゆく光景は、古代を思わせて懐かしい。区画された田んぼの畦道には、げんげの花が咲き残っている。
俳句では、次の一句にとどめを刺す。
みちのくの伊達の郡の春田かな 富安風生
名詞を連体修飾格の助詞「の」で次々と連結するやわらかな文体によって、空間的な拡がりがある「みちのく」から、だんだんに空間を狭く絞り込んでゆく叙法になっている。(川名 大)
青梅に昨夜(きぞ)の雨つぶかがやける
をさな児が片言はなす嫁菜摘み
舗装路を白しじみ蝶曳かれゆき
風わたる生産緑地麦の秋
鋤き終へし田に水わたり蛙鳴く
堰落し水ひき入るる春田かな
畝たちてじゃがいもの花伸び盛り
麦の穂の揺るるがうれし畦に立つ
かるがもの嘴よごす春田かな
池の上の梢に蛙鳴き交はす
椋鳥がわが身の虫を落さむと泥水浴ぶる朝の水張田
いつよりか水を通さず捨てられし土管の中の十字科の花
街川の橋のパイプに今年もやチョウゲンボウが子をはぐくめり