『十年贈歌』
村田耕司さん(短歌人所属)の新刊・第二歌集である。第一歌集を知らなかったので、読み始めてびっくり仰天した。土屋文明顔負けの字余り歌があふれている。しかも、常人というか私の理解を超える作品がいくつもある。日常を詠んで、家族構成や仕事内容がそれとなく推測できる内容なのだが、独特な個性がにじみ出ている。
分り易く面白い歌をあげると、
南麻布一丁目陸橋渡りをはりそろそろ五百五十万円落したところ
御家人の畠山六郎重保は鎌倉第一小学校前にいまも死んでをり
人権記事北京特派員坂尻氏すでに公安の影の中ならむ
春そらの軌道をめぐる「衛星」より新聞字よめるゆゑ注意せよ
「シアトルの水夫たち」とふ球団帽あたまにのせて眠ることあり
「き」で終はりししりとり歌ゲームいつせいに「君が代」ながれ
びびれるわれは
西に向かふバスに乗りこみ一駅をいちどは戻る恋情だつた
こぶこぶを手先足さきにさぐりつつウォールのぼりゆく「大」の字
われは
分るようで分らない歌として、
長き首より飾りの朱が垂れてをり絵はがきいちまい差しだしたれば
わが歌をのせて絵葉書とどきけり夏は盛りのゆめ窓越しに
さっぱり分らない歌として、
下ろしゆく指のさきまでくるしいが逢坂山のいただきとおもへ
ひすい色のさそりのことばに言ひよられはかなの空の明け
わたりたる
と、まあこんな調子で歌集半ばまで読んだところである。