早春賦―江ノ島―
江ノ島の裏の岩場は、冬潮に洗われて釣人の姿はなかった。もっともこの時期、大きな魚は釣れないようである。灯台が立つ埠頭でも雑魚が釣れているだけで、釣人の数もまばらである。正月松の内の賑わいは去って、通常の生活が始まっている。
黄の蘂に目白吸ひつく寒椿
スダジイの幹のねぢれも御慶かな
満ち潮に足濡らせ釣る島の春
水面に映るわが身に見入りたり年あたらしき朝の白鷺
大いなる椿は島の丘の上に潮風うけて花咲かせたり
男きてトランペットを吹き鳴らすつばき花ちる龍戀の丘
媼らがこゑあげにけり陽をうけて水仙かをる龍恋の丘
江ノ島の仲見世通りに黒く立つ明治の御代の郵便ポスト
シャリンバイの低き木立に啼く鳥は目白なるらしちりぢりの声
潜きては浮ぶプロセスくり返すオオバンの群河口の水面
差し出せる細き木の枝にじゃれつきて時をすごせり島の野良猫