天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

猫の歌(2)

江ノ島にて

 小池光の現在迄の八歌集における猫の歌は、次のようになっている。


   『バルサの翼』(1978年刊行)、全285首中0首
   『廃駅』(1982年刊行)、全272首中1首
   『日々の思い出』(1988年刊行)、全499首中1首
   『草の庭』(1995年刊行)、全593首中15首
   『静物』(2000年刊行)、全420首中13首
   『滴滴集』(2004年刊行)、全565首中38首
   『時のめぐりに』(2004年刊行)、全457首中15首
   『山鳩集』(2010年刊行)、全610首中22首


 全体では、3,701首中に猫の歌は105首あり、2.8%を占める。猫の寿命は、平均的には10年から16年という。小池さんの家で飼っている猫が、何世代になるのか、聞いたことがないので分らないが、特徴ある詠み方をたどってみよう。


  やまぶきの暗翳の花朔太郎「猫町」のことしきりにおもふ 
                        『廃駅』
  水なめて立ち去る猫のほのかなる未練をもちて立ち去るならむ
                    『日々の思い出』
  猫の子は橋のたもとの箱のなか捨てられてありむかしのごとく
                       『草の庭』
  庭に出てほそくたばこを喫(の)みながらくるしむ猫をみて
  ゐたりけり                 『静物


  ざぶとんに眠る嚢(ふくろ)を猫ともいふ老荘とほく笑へる
  こゑす                  『滴滴集』


  中年はせんなきものぞ家出して六時間過ぎし猫を案ずる
                    『時のめぐりに』
  かなしまず猫としてありて七年目ダンボールの箱にをりをり入る
                       『山鳩集』