案山子
かがし、かかし と読む。語源は「嗅がし」という説が有力らしい。魚の頭、焼いた獣肉など悪臭を放つものを立てて、農作物を鳥獣の害から防いだところからきたという。それにしても「案山子」という字を当てる理由にはならない。むしろ現在普通に見かけるように、雀など鳥類から稲穂を守るために古着を着せた一本足の人形を山蔭に立てる情景から当てた文字のように思える。北慎言「梅園日記」(1845年)にそうして背景が書かれているらしいが、ややこしいので解読はあきらめた。それはともかく、風雨に曝されて破れ傾いた姿では、雀も馬鹿にして稲穂にとりつくので、実際の効果は疑わしい。懐かしい風物詩だが。
詰襟の案山子に逢ひし小諸かな 古瀬陽蔵
あたたかき案山子を抱いて捨てにゆく 内藤吐天
小山田の霧の中道ふみわけて人来と見しは案山子なりけり
太田垣蓮月
案山子だに紅き襤褸(つづれ)を着るありてうつしよごとは
あはれなりけり 岡野直七郎
田の中にへのへの案山子モンペ穿き 母なる戦後すでに終りき
田浦孝子