天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

案山子、鳴子、鳥威し

横浜市舞岡公園にて

 漢字の「案山子」が意味するものは、山中の平地(案山)に立つ人形のことで、中国の禅僧が用いた言葉という。一方「かかし」あるいは「かがし」は、焼いた獣などの肉を収穫時の田畑に立てて、その匂いを鳥獣にかがせて近づけないようにした仕掛けのことであった。両者が合体してできたのが案山子(かかし)である。鳴子は、小さい板に細い竹管を糸で掛け連ねたもので、それを縄に張って引けば管が板に触れて音を発し、鳥獣をしりぞける。そして案山子や鳴子の類を総称して鳥威しという。


  案山子(かがし)だに紅(あか)き襤褸(つづれ)を着るありて
  うつしよごとはあはれなりけり     岡野直七郎


  田の中にへのへの案山子モンペ穿き 母なる戦後すでに終りき
                      田浦孝子
  むら雀むれゐる小田の鳴子縄たれもゆきまに引けよとぞおもふ
                      落合直文
  一つ鳴り二つ鳴りつつ新墾田(あらきだ)の大田の鳴子鳴り
  揃ひたり                吉植庄亮


  恵林寺(えりんじ)の山内(さんない)ひろき秋ぐもり雀おどしの
  銃(つつ)遠く鳴る            吉野秀雄


  鳥威しをりをり揺るる段丘にかぐのこの実も柿もみのりぬ
                      三国玲子
  一区画雀おどしのひかりゐる早稲田の穂面風わたりゆく
                      御供平佶