野分・台風(2)
台風は、英語typhoonの当て字だが、わが国では古くは野分と言った。現在は野分という言葉はあまり使われないが、雨を伴わない秋の暴風というイメージが強い。右の写真は、台風でなぎ倒されたグラジオラスの群。
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな 蕪村
米提げて野分ただなか母小さし 飴山 實
野分する野べのけしきを見る時は心なき人
あらじとぞ思ふ 千載集・藤原季通
野分せし小野の草ぶし荒れはてて深山にふかき
さを鹿の声 新古今集・寂蓮
履歴書を書くこともなく生きてきて所詮野分の
やうなわたくし 生方たつゑ
誠実に生きて知命を越えし夫の今宵野分を捲きて
帰り来 中野照子
親無しのこの身あはれと呟きて野分のあとをいで
ゆきしかな 藤井常世
朝早く台風来(らい)の警報を聞けばなまぬるき風
ふききたる 斎藤茂吉
台風の眼といふ空の穴あきてはるか遠くより見られ
つつ居る 斎藤 史
台風のじわり近付き来る夜は父が子守の唄うたおうか
佐佐木幸綱
台風の眼に入りたる午後六時天使領たるあをぞら見ゆる
小池 光