天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

荒天を詠むー野分(1/2)

 野分は、野の草木を吹き分ける秋から冬に吹く強風をいう。主に台風をさす。「はやち」とも。「野分だつ」とは、野分らしい風の吹くさまである。

 

  はやちふくしげみののらの草なれやおきては乱るふせばかたよる
                          相模
*人の行動を比喩している歌と解する。

 

  あさぢ原野分にあへる露よりもなほありがたき身をいかにせむ
                     新勅撰集・相模
*浅茅原の野分に吹かれる露ほどもない儚い我が身をどうしようもない。

 

  野分する野べのけしきを見る時は心なき人あらじとぞ思ふ
                    千載集・藤原季通
*「野分の風に草木が乱れる野辺のありさまを眺めるときは、情趣が分からない
  人はあるはずはないと思う。」

 

  野分せし小野の草ぶし荒れはてて深山にふかきさを鹿の声
                     新古今集・寂蓮
*「野分のあと、草原の寝床が荒れ果ててしまったのか、山奥からあわれな鹿の声
  が聞こえてくる。」

 

  夜すがらの野分の風の跡見ればうれふす萩に花ぞまれなる
                    玉葉集・後伏見院
  吹きをりし野分をならす夕立の風の上なる雲よ木の葉よ
                          正徹
  ただならぬ雲のけしきに門立ててすはさればこそ野分ふく風
                        上田秋成

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