泥鰌(続)
「どじょう」の旧かな正字は「どぢやう」だが、江戸時代には、「どぜう」と書いた。この習慣は現代の旧かな使いにも残っている。また漢字では「鰌」一字を当てることもある。浅草の「駒形どぜう」は有名。柳川鍋は、天保の初め頃評判になった江戸の「柳川」という店の屋号にちなんでいる。特徴は笹掻き牛蒡と泥鰌を一緒に煮て卵でとじるところにあった。俳句の季語としては、「泥鰌鍋」が夏の季語。傍題に泥鰌汁、柳川鍋がある。なお「泥鰌掘る」となると冬の季語になる。田や浅い沼の水が枯れる冬は泥鰌が捕り易かったのである。
更くる夜を上ぬるみけり泥鰌汁 芥川龍之介
泥鰌鍋褒貶いまも定まらず 藤田湘子
隣席は老のひとりのどぜう鍋 大沢てる子
酒好きに酒の佳句なしどぜう鍋 秋元不死男
泉の水かへし鰌を今朝は煮つ吾には二三疋多く分ける
土屋文明
駒形のどぜう食わんと冬の日の橋ある道を渡り来たれり
前田 透
開きたるどぜうは食へど丸のまま食むは些か辟易われは
草柳繁一
なまぬるき花鳥風月黙殺し泥に棲む泥鰌の歌うたわんか
水野昌雄
にんげんに明日は食はるる泥鰌とて定め知りなば
かなしからんに 角宮悦子