時計(3)
目覚時計だけは、いまだに手放せない。毎日セットして寝るわけでないが、朝早めに出かける旅行があると、やはり世話になる。起床時間になると初めは小さな音で鳴るが、次第に大きな音になってついには隣近所に聞こえるではないか、と思うくらいになる。
まぼろしのハラハラ時計ひつそりと置かれてゐたり計器盤の陰
武下奈々子
母となり時を刻みて動くらし娘ははきはきと電話に応ふ
倉地亮子
この世へとめざめる朝の不思議あり軀ひねってベルを静める
荻原裕幸
目ざましを午前六時にセットして寝につけば遠く小さし明日は
高野公彦
一斉に正午を告ぐる時計店少し遅れて鳴る鳩時計
木立 徹
ちさき時計は小さく時を刻むらし旅行かばんのポケットの中に
今井千草
踊りいし人形くるりと背を向けてからくり時計は時告げ終る
高橋素子