天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

稲荷

伏見稲荷にて

 京都の伏見稲荷は、和銅四年(711年)に山頂に鎮座、弘仁七年(816年)に現在地へ移されたという。もともとは秦氏氏神で、全国の稲荷神社の総本宮。山頂の三峰には衣食住の三神を祀った。稲荷山は、古来、山城の国の歌枕であった。


  滝の水かへりてすまば稲荷山なぬかのぼれるしるしと思はむ
                   拾遺集・作者不詳
  我といへば稲荷の神もつらきかな人のためとは祈らざりしを
                   拾遺集藤原長能
  いなり山みつの玉垣うちたたき我がねぎごとを神もこたへよ
                    後拾遺集・恵慶
  いなり山しるしの杉の年ふりてみつのみやしろ神さびにけり
                     千載集・有慶
  くる春のしるしもしるく稲荷山かすみかかれる峠の杉むら
                      荷田春満
  稲荷山杉のもとつ葉をりかざしゆふこえ行くは都人かも
                      村田春海
  稲荷山赤き鳥居のつづきたる頂ちかき遠太鼓かも
                      吉井 勇


 先日、山頂(一の峯)まで登ってみたが、いやはや梅雨の晴れ間で蒸し暑く、熱中症になることを気遣いながら、足腰がたがたになって下山した。本殿と山頂まで続く赤い鳥居の列は壮観であり、信仰の総力を実感した。


     八の字に茅の輪をくぐる稲荷かな
     鳥居あまたくぐる稲荷の青葉闇
     梅雨晴れの山に水吐く狐像
     汗拭ふ伏見稲荷の一の峯


  奈良線稲荷駅にて下車すればまなかひに立つ朱き本殿
  今ははや持ちあぐることかなはざり伏見稲荷のおもかる石は
  足腰の弱りたるかな山頂を目指してくぐるあまたの鳥居
  山頂へ赤き鳥居のつづく道あきらめきれずひたすら登る
  わづかなる賽銭入れて鈴鳴らし健康祈る稲荷山頂