天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

靴(3)

木履

 日本では平安時代に木履(ぼくり)が上流階級で履かれたが、束帯、衣冠、直衣などの着用に際してこれが用いられた。桐の木をくりぬき、黒漆を塗ったものであった。


  喪のような空に帽子を投げつけて恋うるニコライ・
  スタヴローギン            古明地実


  いま脱ぎて置かれしごとく軟らかしケースのなかの
  中也の帽子              中西輝磨


  風に飛ぶ帽子よここで待つことを伝へてよ杳(とほ)き
  少女のわれに            小島ゆかり


  なぜここで靴を揃へる 玄関が深い谷間にえくる今日は
                     日高尭子
  客の靴揃へて出で来しばしの間座をはづすのも仕事のひとつ
                    鶴岡美代子
  あらかじめ決めし詞に謝りおり革靴の尖(さき)黒く見えつつ
                     吉川宏志