天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌集『ここからが空』(2/2)

本阿弥書店刊行

 詩としての短歌に常用される比喩、擬人法、リフレイン、取合せなどの修辞法も豊富であり、工夫がなされている。春野さんは詩を先に学んだのではないか、あるいは短歌に詩をのせることをモチーフにしているようだ。詩が先にあってそれを短歌形式にのせたようにも見える。


  愛犬のやうな掃除機つれあるくだれにも会へぬ日の夕ぐれは
  *擬人法がピッタリ合う。


  リアス式海岸に似る足指をねんごろに洗ふ地震より七月(ななつき)
  *直喩である。


  軟らかな胸の粘土をひきいだし夏の水辺に天日干しせむ
  *隠喩である。


  草も木も冬芽(ふゆめ)に夢をしのばせて春一番の吹く朝を待つ


  手を伸べて生をさしだす八重桜その意のままにわれも手を伸ぶ
  *八重桜の姿が生々しい。


  やまももと口にするときやさしくていくたびも声にいだす
   やまもも
  *「や」音のリフレインとひらがな表記が美しい。


  ウィンカーの音はづませる循環バス右に曲がれば夏の入口
  *結句の転換・取合せ


  階段をのぼるをさなのまるき尻フニクリフニクラひだりにみぎに
  *下句の表現・表記・リズムが笑いを誘う。


 この歌集を、これから短歌を始めようとする人たち並びに短歌にマンネリ
を感じている人達にぜひ一読を薦めたい。