天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

歌集『思川の岸辺』(10)

角川書店刊

 小池さんは、現代歌人ながら「あはれ」を気にせず使っている(実は内心では、使う場所に配慮している)。周知のように、「あはれ」には、名詞(悲しみ)、形容動詞(ふびんだ、感に耐えない)、感動詞(ああ)と、三つの働きがある。いずれに用いているかは、歌の内容・構造から分る。


  卓上に置けるメガネのたまに映る夏草のいろあはき
  あはきあはれさ


  一冊の文庫本さへ読み上げずあはれひととせ過ぎて
  ゐたりき


  館林うどんに続き氷見うどん来たることしの中元あはれ
  わづかなる興奮をしてをはりたるけふのパチンコの
  こともあはれむ


  中吊りの広告にみてあはれあはれ「2部位脱毛し放題」とや
  直射せる夏のひかりに地方都市歓楽街のあはれまづしく
  食後飲む薬六錠歯のくすり目のくすりあはれこころのくすり
  わが爪の伸びる速さもあはれなれ十日もまへか截(き)り
  たるものを


  子と交はすメールといへどあはれあはれときに感情の
  行き違ひあり


 この歌集の分析点は、まだいくつかあるが、とりあえず今回で最終にしておく。